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飲み物を取ってくる間に、エンディングが終わっていたらしい。CMに流れる流行りの歌を口遊みながら君がソファから振り返った。
「好きだね、その歌」
「サビしか知らないけどね」
熱さに気を払いながら渡したマグカップ。ふぅと水面を吹きながら賑やかな画面を見やった。
「自分じゃない自分がいるって、想像したことある?」
瞬き、それは繰り返し尽くしたサビの歌詞からの話題と分かれば、丁度始まった次回予告から視線を外した。
「ドッペルゲンガーだったら死んでるね」
「そうじゃなくて」
「冗談。でもまあ、強いて言えば」
画面の中で役者が動く。隣でココアを啜る人とよく似た役者が。まるで物語から出て来たみたい、と賞賛を伴って。
「『本物みたい』って、誰かに呼ばれたのなら」
声高に罵る高音は、柔い声音と似ても似つかないのに。
「『本物』は、本当に唯一の本物のままでいられるのかな」


「カット!オーケーです」
「メイク直し入ります」
「次は翌朝のシーンですね」
ざわざわと空気が一斉に動き出す。
クーラーの付いた屋内でも尚暑すぎる冬服に、ようやく息をつく。
「一先ずお疲れ様です。大丈夫?すいません、冷たい物ありました?」
「ありがとうございます……」
湯気のたつココアは早々に回収されて、透明な水が体に染みた。
「でも流石ですね、台詞じゃないですけど、本当にあのキャラが実在したって勢いでしたよ」

‹私だけ›


「一番古い記憶と聞かれた時、君は何と答える?」
「ふむ、園児の頃か」
「確かに。胎児の頃から記憶があるという人も、
 前世やその前から記憶があるという人もいるね」
「真偽は置いておいても、興味深いと思うよ」
「私かい?」
「世界5分前仮説、という言葉を知っているかな」

‹遠い日の記憶›

7/18/2024, 12:21:04 PM