月下の胡蝶

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お題《赤い糸》



想いを丁寧に丁寧に織って結んで――縁に繋げてあげる。


《赤糸(あかし)の織姫》 


それが私の持つ異名。部屋を張り巡らせているのは緋色、臙脂、焔などの糸と、眠るように片隅にいる機織り機だ。かれこれ数千年も使っており、今ではすっかり老いてしまった。


それでも、美しい縁を織り上げてくれるから、それで十分なのである。


陽光さす窓にある棚には植物が並んでいる。お礼にと、私宛てに送られてくる物の一部だ。他にも綺麗で美味しそうな菓子や珍しい酒やお茶などもある。


ひとりきりでは食べきれないから、よくあいつを呼ぶ。



「おい、来てやったぞ」


部屋に訪れたのは鮮やかな緋色の髪の男だった。見た目からして強面なのだが、実はこう見えて猫と甘いものに対してはとても可愛いから好きなのだ。



――なんて口がさけても言わないが。



「今回は蜂蜜たっぷりのシロップ漬けのパウンドケーキが届いたのだ。今夜光珈琲を淹れるから、待っててくれ」


「ああサンキュ。そうだこれ」

「? なんだ?」

「お前に似合うと思ってな」



朱く艷やかな椿の髪飾り。



「……お前ってやつは」



自分の縁はままならないけど、私は幸せだ。


6/30/2022, 11:33:06 AM