小さい頃の話。鏡の魔法を信じていた。
病弱な私は病室からほぼ出られず、忙しい両親に会えなくて寂しくて毎晩のように泣いていたとき。
鏡の向こうから少年が声をかけてきた。同い年くらいの、おっとりとした少年。
寂しさに耐えかねていた私はすぐにその少年と仲良くなった。いろいろなことを話して、そしてそれを少年がうなずきながら聞いてくれる。
そんなある日のこと。少年が願い事を叶えてあげると言い出した。私は嘘だと思ったが、両親に会いたいと願ってみた。
するとどうだろう、忙しい両親がやってきて私の頭をなでて1日そばにいてくれたのだ。
本当でしょ?と得意げにする少年の事を、私はすっかり魔法使いだと信じた。
それからたくさんのことを願ったのだ。健康な体、愛情、友達、失くした宝物…
そのすべてを彼は叶えてくれた。ただ一つを除いて。
私の願いが叶うたび彼は傷つき、痩せ弱っていく。心配した私に彼は言った。
鏡の向こうはすべて逆の世界。決して交わらない逆さ合わせなのだと。
せめて願いを叶えてよと、貴方と共に生きたいという願いを。
しかし貴方はそれを拒んだ。僕は君からもらったものを返すだけだと。
そして貴方は溶けるように消えていった。本当に魔法が解けるように。
私はそれ以来、あなたが現れるのをずっと待っているのです。
35.『鏡』
23/8/18 ♥300over ありがとうございます
8/18/2023, 10:41:40 AM