『喪失感』
それを見つけた時、胸の鼓動が早まるのを感じた。
ああ、これは世界に一つだけなのだ、私のためだけに存在しているのだ、と。
逸る気持ちを抑え、踊るように近づくと、両手でそっと拾い上げた。
かつて世界に何千何万と(一説によれば億とも)存在したという「本」。
なんでも無数に文字が書かれていて、様々な内容があり、実用的なものの他に架空の物語まであるという。
それが、いま、私の手に!
感無量になりながら、恐る恐る紙をめくる。この一枚一枚を、頁というらしい。
すっかり魅せられ、惹き込まれた後に残るのは、途轍もない喪失感。
読んでしまった。
読み終わってしまった。
どうしてもっと時間をかけなかったのだろう。
いや、そもそも、どうして読み始めてしまったのだろう。
始まりがあれば、終わりが来るのに。
胸を抑えて、閉じた本を見る。
その時、天啓が降りた。
《もう一度読めばいいのでは?》
天才か!
9/10/2024, 11:38:28 AM