(相合傘)(二次創作)
ぽつりぽつりと降り出した雨は、あっという間に篠突く雨へと様相を変える。年中雪しか降らないナッペ山で暮らしていると、雨への対策はおざなりになりがちで、結果、グルーシャは立往生を強いられていた。思い返せばこの街に着いた時点で、既にどんよりとした曇り空であった。雨のハッコウシティは、どこか静かに雨音を響かせている。
(参ったな……)
悪天候時、タクシーも呼べず、打つ手が無くなってしまった。ちょうど休業中のお店の軒先で雨宿りが出来たはいいものの、これ以上何をしようにも動けない。もし今いるのがテーブルシティであれば、たとえば通りがかった知り合いの傘に入れてもらうのも一案だが。
(知り合いなんて、チリさんなんだけど)
「呼んだ?」
「!!」
心臓が止まったかと思った。声に出していないのに、まさに目の前にチリがいる。だが、どうやら傘は持っていないらしい。なあんだ、とグルーシャは息を吐く。
「傘、持ってたら入れてもらおうと思ったのに」
「えー、相合傘ってやつ?自分、意外と乙女チックなこと言うんやな」
「乙女チックって……下心がないとは、言わないけど」
雨はまだ降り続いている。結局、ただ軒下の雨宿りが二人に増えただけだ。チリはジムリーダーと打合せがあり、昨日からハッコウ入りしていたと話す。イッシュ地方の学校への特別講師派遣の件だとか。そういえば、グルーシャにも同じ話が来ていたのを思い出す。チリではなく、リーグ職員がナッペ山に打診に訪れていた。
チリは引き続き、仕事のことからバトル、他愛ないことまでべらべらと喋っている。傘を口実に触れ合うことは出来なかったが、退屈を凌ぐのには十分な成果だろう。知らず知らず、グルーシャは小さく微笑んでいた。
6/20/2024, 11:24:10 AM