ゆるやかに揺蕩っていた意識を取り戻しながら、ああ、寝ていたのかと今ある状況を理解し始めていた。
少しの間だけ、瞬きをゆっくりめにしていただけで寝てしまうほど疲れていたらしい。
実際毎日毎日朝から晩まで練習で。
こっちはくたくただというのに更に自主練だと騒ぐ馬鹿共の声にげんなりしつつ、同じように足を向けてしまうくらい自分も馬鹿になってしまったのだろう。
結果、消灯を過ぎても上手く寝付けないくらいに冴えてしまって、水分補給をしようと自販機に来たのだった。
「…ったた」
簡易ベンチでうたた寝してしまい、身動いだ身体のあちこちから悲鳴が聞こえる。
背中を伸ばそうとして、そこでようやく重みに気付いた。
「なんで……」
だらりと足を投げ出し、薄いベニアの背もたれと僕の肩に体重を預けて眠る彼。
ここに来た時は一人で、約束をした訳でもないのに。
寝心地は僕の身体が知っての通り、大変よろしくはないが、彼も疲れているのだろう、腕を組んだままぴくりとも動かない。
静かだ、と思った。
聞こえるのは左隣の自販機のモーター音、遠くの虫の声、そして右肩から僅かな寝息。
いつもと違う髪型だからか、快活に動く眼差しがないからか。今までにない、存外幼い印象を受けて。
ふと、嬉しい、と。
自覚して。
どくり。
身体の中心が嫌な悲鳴を上げた。
ああ、だめだ。顔も手のひらも熱くなっていくのが分かる。
その上を冷えてしめった汗が浮かんで。
ああ。
早る心臓が聞こえてしまわないように。
『目が覚めるまでに』どうか、どうか。
8/3/2024, 12:20:54 PM