岐路(闇の二択)
「ま、待て………」
―――最終決戦、旅の終わりの最後の城。
魔王との死闘の末ついに膝をつかせたその喉元に、勇者は鋭い剣先をつきつけた。
「この期に及んで命乞いか? 見苦しい」
我が。
この我が、こんな小僧に屈するとは………!
ぎり、と魔王が唇を噛み締める。
―――いやまだだ。まだ我に、勝機はある。
「まあ待て勇者よ。お前の無類の強さはこの身を持って思い知った。恐れ入ったぞ、感服する」
「………褒めて頂き光栄だ、とでも言えば満足か? 最期に言いたいことはそれだけか」
―――剣先が撓る。
いや待て、と魔王は話を繋いだ。
我がここで今お前に倒され滅んだとしても、世の瘴気が完全に晴れることはない。
禍々しい悪は蔓延り、都度新たな魔王が誕生する。延々と堂々巡りを繰り返すだけだ、馬鹿馬鹿しかろう?
しかしこれを打破する唯一の方法がある。
お前が我と手を組み世界を征するのだ。
我の同朋となれ。さすれば世界の半分をお前にやろう。
悪い提案ではあるまい?
「………そうか、半分か」
「そうだ。半分はお前のもの、好きにすればよい。覇者となれるのだぞ。どうだ、欲しくはないか?」
さあ提案に乗るがいい。
勇者といえど人の端くれ、欲望には打ち勝てまい。
………我は倒される寸前で辛くも命を繋ぎ、そのままお前を闇の世界に葬り去る。
全てはまた、それからだ。
「お前は何か勘違いをしている」
勇者は後方に控えていた魔導士を近くに呼ぶと、彼に“それ”を発動させた。
―――片手を掲げた真上の空間に亀裂が入り、漆黒の闇が現れる。
「この状況でそんな詭弁を振るうとは、お前も相当に余裕がないらしい。………そんな余裕のないお前に、私もひとつ提案がある」
「何だと?」
「私もお前に世界の半分を授けようと思う。永遠を彷徨い続けるこの魔法の闇に囚われるか、それとも自身を終わらす死の闇に囚われるか」
魔王の額に一筋、汗が流れる。
「世界の半分、闇の世界の二択だ」
罪のない人々を大勢死に追いやった、お前に相応しい最期だろう?
勇者の持つ剣先が鈍く輝く。
その後魔王が見たのは、深淵の闇か息絶え朽ち果てた先に広がる闇か―――。
世界が平和となった今。
その真相に触れる者はいない。
END.
6/9/2024, 3:04:40 AM