突然の強風に傘が煽られた。飛んでいかないように手元を両手でぎゅっと握りしめる。突風の割に強く吹き続ける風は、私を南西方向から強く押した。収まるどころかさらに強まっている。前へ踏み出そうとした一歩はもとに戻して、姿勢を安定させる。それでもたたらを踏んだ。ほんの数十センチ、車道に近づいた。これ以上押されないように足腰に力を入れる。
最寄り駅までの平坦な道は、風が強い日に突如として牙を剥く。マンションが建ち並ぶその隙間からのビル風に、地下駐車場から吹き上げる風。その二つが合わさっている危険なポイントが一ヶ所あるのだ。
初めてその現象に遭遇した時、傘が壊れた。コンビニのビニール傘だった。生地の部分が親骨もろともそり返り、中心から外れてしまっていた。ここまでバキバキに折れると、修復不可能だ。それ以降、傘は十六本の大きくて丈夫そうな太さを選ぶようにしている。
大きい傘は風の抵抗をさらに受ける。歩くたびに一瞬浮いたんじゃないかと錯覚するくらいには。
もしこの突風を受けて傘もろとも浮いたら。
頭の中のイメージとしてはトトロたちが傘を持って空を飛んでいたあのシーン。ふわりと、でもあっという間に木の上へと飛んでいって、上空から畑や田んぼを見下ろす。あのシーンのような体験ができれば、爽快感で気持ちがいいのだろう。
ヨタヨタと歩きつつ、傘から空を覗き見る。
尖った電柱に張り巡らされた電線、高層のマンション群、背の高い木々。
これ浮いたら絶対どこかに引っかかって地面に叩きつけられるパターンだ。
実際に想像してしまってゾッとした。私は少し緩まった風を感じ取って、足早にその場を後にした。
間違っても浮いてしまわないように、体を鍛えようと心に誓った。
『風に乗って』
4/30/2024, 5:15:44 AM