スイミングの帰り道、濡れた水着の入ったバッグを担いでピチャピチャと歩く。
行きは晴れていたのに、今は雨がポツポツと降っている。
ところどころ窪んだアスファルトが水たまりを作っては、歩行者の足を引きずり込もうと狙っているようだ。
俺はどうせさっきまで水の中にいたんだからと、靴が濡れることも気にせず堂々としていた。
俺にとって水は友達。楽しく戯れてお互いを輝かせる。
(あ、月曜は小テストだった)
なぜかふと今はどうでもいい事実が思い起こされ、なんとなく沈んだ気分になる。この曇天に引きずられているのだろうか。
こんな時は歌でも歌って気を紛らわそう。頭の中でだけど。
脳内に最近ハマっている曲を流し、歌詞を乗せて再生する。
いい感じに気分が上がってきたとき、視界に入ったカフェに想い人がいるのに気がついた。窓際の席で何か読んでいる。
ああ、先生。今日もかっこいいなぁ。
声をかけてもいいだろうか。読書の邪魔になりかねないが、せっかくのチャンスだ。逃す手はない。
覚悟を決めた俺はカフェに入ろうと一歩踏み出したが、その直後にフリーズした。
先生に話しかけたやつがいる。
(岡野……!)
なぜ先生とあいつが、休日にこんなところで一緒にいるんだ!?
先生はたしか家庭教師のバイトは平日だけと言っていた。今日はあいつも指導日ではないはず。
2人は少し談笑した後、先生が読んでいたものを岡野に手渡した。岡野はそれを握りしめて嬉しそうにしている。
なんだ。
なんなんだ。
俺の胸は、体の奥から沸々と湧き上がってくる怒りにも似た感情に焼かれた。
邪魔してやる。そう思った。
今度こそ入店して2人の間へ乱入しようと試みるも、なぜだか一向に動かない我が足。
岡野は笑っている。
好きな人といるのだから当然といえば当然。
だが先生も笑っている。
それはなぜ?
「営業スマイル」という単語が脳裏をよぎった。しかしそれは言い訳に過ぎないことも肌で感じていた。
先生が笑っている。
俺には見せない表情で。
先生が笑っている……
気がついたら俺は、本降りになった雨の中を夢中で駆けていた。
先程まで友達だった水が全身を浸す。
やけに冷たく感じられた。
テーマ「雨に佇む」
8/28/2024, 5:31:36 PM