【忘れられない、いつまでも。】
こんな筈じゃなかった。
何処にでも転がっているような、ありがちなワンナイトのつもりがどうしてこんな事になったのか。
彼女の甘ったるい香水の匂いや、苦痛の中に混じり始める甘みを帯びた喘ぎ声、白く黒子一つない柔肌、胸から尻にかけて男のそれとは完全に違う艶かしい身体の曲線、俺の身体を撫でる艶やかな黒髪、与えられる初めての快楽に戸惑いながらも抗えない表情。
その全てが俺の身体、網膜、嗅覚、脳髄に刻み込まれてしまった。
「さっさと忘れてね、私の事なんか」
別れ際そんな事言われちまって、逆に忘れられない。
しかも名前も歳も勤め先も経歴も、全部嘘っぱちじゃねぇか。
お陰でこっちは未だに顔と匂いだけを頼りに、アンタをずっと探してる。
清純ぶった顔をして、大した女だよアンタ。
5/9/2023, 2:00:48 PM