物憂げな空
空を見る。木の葉の隙間から見える空には太陽は見えず雲ばかりが覗く。太陽を見たのが何十年も前に思う。何時も通りの薄暗い霧があるこの森の奥には誰も立ち寄らない。動物達なら見かけたが人なんて私以外には滅多に見かけない。ここから少し歩いた所にある小さな小屋が私の住処。毎日決められたルーティンから逸れる事は無いのだろう。
空を見る。今日も空は雲に覆われている。湖から帰る帰り道で何時も通り空を見ていた。少しの間空を見上げていたが飽きてしまって正面を見ると少年がいた。何やら不思議そうな顔で此方を見る。
「何?」
「えっ?嗚呼!ごめんね、こんな奥に人がいる事に驚いて。」
「ふーん。まあ此処から離れた方がいいよ。暗くなると更に霧が出て帰れなくなるから。」
ほら行った行ったと手で追い払う。私でも夜に出歩くと危険なのだからあんな子が出歩ける訳がない。少年は直ぐに見えなくなった。それにしても変わった子だった。そもそも此処には、それもこんな奥まで入るなとは言われ無かったのだろうか。少し先程の事を考えながらドアを開けた。
空を見る。今日も何時も通りだ。来た。遠くから走る音が聞こえる。あれから毎日あの少年はくるのだ。
「君はこの森について詳しいね。」
この前小屋に向かって歩く道中、そんな事を言われた。当たり前だろう。ずっと昔からここにいるのだから。生命の神秘も木々や湖の美しき事も、森の儚さもここの事なら何でも分かる。
空を見る。隣には少年から青年となったあの子がいた。何やらずっとこちらを見てくる。
「何か付いてる?」
「いや?ただ君はずっと変わらないなと思って。」
怖くないのだろうか。声には愉悦の色が付いていた。呆れの表情を全面に出しながらそちらを見る。彼は未だに笑っていた。
空を見る。何時もと変わらない。少年は死にここには私一人になった。なにか変わった訳では無い。むしろ最近が可笑しかったのだ。誰に言う訳でもないが言い訳をした。帰り道とはこんなにも長かっただろうか。すぐになれるだろうが落ち着かない。私は一人ドアを開けた。
空を見る。今日も雲に覆われている。また正面を向くとあの時の様に少女が此方を見ていた。不思議そうな顔で此方を見ている。
「何?」
また新たな物語が始まる。物憂げな空も何時も通りで幾千の時が経とうが変わらずあった。御伽話の様なそれは御伽話にしては少しビターな味がした。
2/25/2026, 1:00:00 PM