小絲さなこ

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「遠距離片想い」



遠距離恋愛だったら、どんなに良かっただろう。
私がしているのは、不毛な恋だ。
遠距離で、絶対に片想いだとわかっている恋。
なぜなら、彼はあの子のことが好きだから。


「グループ内で恋愛なんて、絶対あとで面倒なことになるから、あたしはしないなー」
何気なく言ったあの子の言葉に、一瞬彼の顔が引き攣る。

「たしかに。別れたら気まずいことこの上なし!」
「だよねぇ!」

あの子にはバレないように、こちらにあの子の視線を向けさせる私。
何を言っているのだろう。
グループ内で、片想いをしているのに。しかも何年も。


年に数回しか会えないことを感じさせない会話はつづく。
帰りの特急電車は予約していない。
明日も有給取得済み。

片想いで、他に好きな人がいるってわかっているのに、私は何を期待しているのだろうか。



話に夢中になっているフリをして、わざと逃した最終電車。
家路につくあの子と別れて、彼とふたり夜の街を歩く。
ひとつひとつ消えていく店の灯り。



遠距離恋愛だったら、どんなに良かっただろう。
私がしているのは、不毛な恋だ。
何年も何年も実らない恋を抱えている彼に、私は何年も何年も実らない恋をしている。


ネットカフェに向かおうとする彼の背中に抱きつくことができたらいいのに。

そんな勇気があったら、とっくに告げている。


どうか今、ここで世界が終わってほしい。




────時間よ止まれ

9/19/2024, 3:10:07 PM