かたいなか

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「桜が散る理由は意外と色々あるのな」
塩害、虫害、キノコ、自然な時の経過。ソメイヨシノに関しては、満開になったあたりで散るための手順が実行されて、ゆえに一斉に花が落ちるとか。
某所在住物書きは桜を書くにあたり、ネット検索の結果をスワイプで確認しながら、ぽつり。
「ソメイヨシノが一斉に咲くのは全部クローンだから、ってのは知ってたが、
そのソメイヨシノの花びらが一斉に散るの、そういう『一斉に散る仕組み』を持ってるからなのか……」

じゃあ他の桜は?
物書きはふと疑問を、持って、検索をかけようとして、面倒になって文字入力をやめる。
「散る、っていえば」
物書きは言った。
「例の桜問題、『ソメイヨシノが咲かない地域が出る』の他に、『ソメイヨシノが一斉に咲いたり、一斉に散ったりしなくなる地域がある』ってハナシも、あったような、無かったような……」

――――――

まさかまさかの前回投稿分に繋がる物語。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。
某稲荷神社は比較的深めな森の中。木々が日差しを適度にさえぎって、都内にありながら、そこそこの涼しさを保っています。
稲荷の神様のご利益か、ここに住む狐のまじないか、ともかく在来種や日本固有種の花多いそこは、今まさに、盛春の花があちこちで、顔を出し花びらを開き、ミツバチやチョウチョを待っています。

さて。
この稲荷神社、「ぼっち桜」とか「夢見桜」とか言われている、今となっては本当の品種名もそれが在る事実自体もだーれも分からなくなってしまった、「ひとまず桜の仲間」ということしか知られてない桜がありまして、ソメイヨシノ散った今が丁度花盛り。
多分遅咲き品種なのでしょう。
ソメイヨシノほどの華麗さも、シダレザクラほどの豪華さもありませんが、
ぽつぽつ5枚の花びらを、勿論ぼっちなので受粉して実を結ぶこともありませんが、
ぼっちなりに、咲かせておりました。

「……結局何の品種なんだろうな?」
そこにやって来たのが稲荷神社の参拝客。
「一斉に咲かないからソメイヨシノではないし、八重咲きっぽいのはよく見れば雄しべと雌しべだし?」
名前を藤森といいます。
花と風と雨を愛する、雪降る田舎からの上京者。
今日は在宅でリモートワークをしておりまして、休憩時間に、ちょっと花でも撮りにきたのでした。
「神主さんは『夢見桜』と言っていたが、検索をかけても該当品種が出てこない。……愛称かな」

ポン、ポン。
立派に育った幹に触れ、かわいらしく咲いた胴吹きに気付き、スマホでパシャリ。
ふと、木の下に視線が向きました。
桜の花が、花びらではなく、花そのものとして、ポトリ、いくつも落ちています。
「スズメかシジュウカラの犯行だな?」
あーあー、綺麗にこんなに、落としてしまって。
桜散る木の下、緑と薄桃色の中に片膝をつき、
藤森、根本からポトリ落ちている桜の花をひとつ、拾い上げました。
きっと、ここの桜の蜜はとっても甘くて、美味しくて、絶品なののでしょう。
それを知った小鳥たちが春の甘露を堪能して、しかしメジロやヒヨドリのように蜜を上手に吸えないスズメは、プチリ、花をこうして落としてしまうのです。
しゃーない、しゃーない。

「夢見桜か」
ぼっち桜の木を見上げて、藤森、呟きました。
「いい夢でも、見られるのか?……まさかな?」
チラリ右見て、チラリ左見て、ぐるり周囲を再確認。
参拝客が自分以外居ないのを見てから、藤森、スマホで20分のタイマーをかけます。
桜散る通称夢見桜の下で、ちょいと昼寝してやろう。

どれどれ。
藤森は比較的キレイなあたりに汗拭き用のロングタオルを敷いて、すぅすぅ、幸福に寝息をたてます。
藤森が桜散る夢見桜の下でどんな夢を見たか、そもそも20分程度じゃ何も見てないかは知りませんが、
少なくともこの十数分後、神社在住の子狐が縄張り巡回、もといお散歩で歩いてきて、
寝顔さらす藤森のドテッ腹にドンと飛び乗り咳き込ませるのは、前回投稿分の物語で明らかなのでした。

4/18/2024, 2:59:51 AM