『窓から見える景色』
王城の窓から見える景色はいつだって退屈だった。剣の稽古も魔法の勉強も極め尽くし、城にある書物の形をしているものはすべて読み尽くした。手を付けられていないものといえば私が成長して王権を譲られ、国を治めるのみとなる。しかし父も母もまだまだピンピンしているので当分先の話であろう。
「なにか大事件でも起こらないだろうか」
窓の外を頬杖ついて眺めていたとき、ぼそりとこぼした言葉を聞き届けたかのように空の果てに黒い染みが現れた。黒雲渦巻き、雷鳴轟いてなにやら禍々しい気配をひしひしと感じる。
「……これは、大事件だ!」
急ぎ軽装に着替え手近にあった剣を掴み、まだ何も知らぬ様子の父の元へと馳せ参じる。
「ちょっと偵察に行ってきます!」
街へ行くときの常套句なので父は今日も行先は同じだと思っていることだろう。気を付けるのだぞ、とのんきな言葉を背にして城門を抜け、強化魔法をこれでもかと重ね掛けする。門兵たちはただならぬ様子に声を掛けようとしていたが、そのときにはもう風より速く走り出していた。
9/26/2024, 3:34:40 AM