「鬼道と呼ばれる魔術を操るという、卑弥呼殿にお会いしたい」
「邪馬台国としても、遠路はるばる来た大陸からの使者を無下にしたくありません。ですがあいにく卑弥呼女王は、限られた人にしかそのお顔を見せませんので」
「聞いていると思うが、大陸は現在三つに割れている。この倭国に及ぶ影響もゼロではないのだ。邪馬台国には邪馬台国のやり方があるだろう。だが今回のところは我が皇帝の直筆の書状に免じて、女王との面会の許可をくれないか」
「はて、困りましたね。これで書状は三枚目です。面会以前に、女王はどの国に味方すればよいのでしょう」
「それは、軍事力も経済力も他の二国に引けを取らない我が国だ。皇帝の治世はもちろん、皇帝を支える人材の政治力がすばらしい。あなた達の邪馬台国がそうであるかのように」
「ありがとうございます。倭人風情にへりくだって、あなたは漢人らしくないですね。こんな仕事を押し付けられるくらいですから、お人好しなんでしょう」
「……」
「決めました。あなたの国にします」
「! それは……卑弥呼女王が我が国と共に戦ってくれるということで相違ないか?」
「はい」
「ありがたい話だが……いきなりなぜ」
「漢人らしくないあなたに心惹かれたということにしておきましょう。今まで書状を携えてきた二国は、二国とも態度が横柄極まりなかったです。卑弥呼は自分に反逆してきた者を許しはしない」
「だが、卑弥呼は既に老齢だと聞く。長い船旅に耐えられるか」
「私です」
「は?」
「私が、邪馬台国の女王卑弥呼です。鬼道使いとか言われていますが、あんなのはただのインチキです。いわば洗脳と同じです」
それでもいいですか。
巫女装束で無表情に迫ってくる、老齢というにはあまりに若い女。
純粋な漢人ではなく、血筋だけで出世してきた自分にとって、あまりにも得体のしれない女だった。生まれた国も推測できない。
初め自分のほうが上にあったはずの立場が、だんだん逆転しつつあった。
(町井式卑弥呼)
2/23/2025, 3:25:40 PM