(ページをめくる)(二次創作)
まだ明るい部屋の中、ページをめくる音がする。それまで眠りの世界にいたオワパーは、覚醒する前の微睡みの中で、幸せな気持ちになった。アヤタユ王宮の離れ、王姉オワパーの私室には、王その人でさえ勝手に入ることはない。禁を破り、扉も窓も通らず直接この部屋に姿を現す人なんて、オワパーは一人しか知らなかった。
「起こしてしまいましたか」
水のエナジストーーアレクスの柔らかい声がする。
このまま寝たふりを続けて、この部屋に誰かがいる気配だけ楽しみたいところだが、目覚めが知られている以上無理な相談で、渋々ながら、オワパーは目を開けた。神出鬼没のこの男は、どうやら昨日オワパーが王宮の図書室から持ち出した本を読んでいたようだ。古くから親しまれる花とそれにまつわる神話や伝説がまとめられた本だが、体調を崩していたためまだ少しも読んでいなかった。
やや熱が残っているように感じる。
そう素直に申告すると、アレクスがプライのエナジーを掛けてくれた。瞬間、すっと熱が引き、体の動きもだいぶ楽になる。彼曰く、治っても養生しなければまた再発するとのことだが、体を起こせるようになったのは嬉しい。アレクスは再び本に目を落としている。何が彼の興味を惹いたのだろうか。おおよそ花など好むようには見受けられないのに、などと考える。すると、アレクスが小さく吹き出した。
「積極的に好む程ではないにしろ、きれいなものは嫌いではないのですよ」
それに、とオワパーの髪を取る。
「手慰みに、あなたにお話しすることもできる――物語を知っていて損はありませんよ」
「あくまで損得の話なのね」
「おや人聞きの悪い」
大仰に肩をすくめるアレクスが何だかにくらしくて、オワパーはさっと本を取り上げた。目次を見る限りだと、最近離れの庭に植えたアリッサムについての物語も載っているよう。アリッサムの花言葉を教えてくれたのもアレクスだったと思い出し、オワパーの心は弾んだ。
9/3/2025, 7:29:20 AM