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30代の大台を超えた頃、唐突に、元彼に振られてから一年が経とうとしていた。

友人達の結婚ラッシュが続いていた時だった事もあり、起伏の激しい感情のうねりをなんとか抑えつけて過ごし、そして疲れ果ててしまい、全てどうでもよくなってきた頃だった。


夜中に眠れず、そこまで名の知れていないゲーム配信者の動画をASMR代わりに眺めていた。

それまで淡々と配信していた彼は、急にうつ病を告白する。

ゲーム配信だけでなく、クリエイターとしてテクノやダンスミュージックなどの曲も作って発表していた彼からは想像も出来なかった。

配信や投稿が時折数週間も空いてしまうのは、そういった理由があっての事だった。

それまで、さほど興味を持たずにただ眺めていただけだったのに、自分自身の深く濃い喪失感とまだらでグラデーションがかった自己否定が共鳴する。

頬に入る縦の皺と笑顔が急に切なく見え、彼の作る音が、どんな人も弱い人であり皆一緒なんだと教えてくれた。


朝、いつものように出勤する。

彼の苦悩を知り、彼の前向きな音を聴いていると、いつもの景色の色彩がワントーン上がって見えた。

初めて「推し」の意味を理解する。

見返りは求めず応援したい。こういう感情のことなんだろう。


正直に。

希死念慮は無いけれど、もう生きることに疲れたとは思っていた。

いつの間にか流れる涙の意味も分からず、これ以上頑張れないとも感じていた。

配信者の彼は、写し鏡で教えてくれる。

「元気になろうとしなくていい。そのままの君でいい。ゆっくり歩こう」と。


題:力を込めて

10/7/2024, 7:06:10 PM