アカサキオキ

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 あなたの声を覚えている。

 わたしは好き嫌いでしか判断できないから、昔も今も好きだと言うことしかできない。
 あなたは、昔を否定するかもしれないけれど。

 曲はいまより単純なものだったかもしれない。楽器が、音が増えた。あなたの技術が高くなったのだろう。努力の過程を知る術がないから間違っているかもしれない。けれど、きっと今の曲のほうが、わたしの知らない技術を使っているのだろう。
 ことばもいまよりずっと拙かった。語彙が増えた、表現に余韻がある。そしてそう感じるわたしの感性も高まったのだと信じたい。
 あなたの表現の変化がその声にもあらわれている。あなたの声自体は変わらないけれど、あの頃とは違うのだと感じる。振れ幅が大きい。

 知っている人なのに、知らない人みたいだ。


 だから驚いたのだ。あなたがあの頃の歌を、あの頃のまま歌うから。
 そして、あの頃のように、わたしと目が合うと笑みを深くして、歌い続ける。
 目が合った、なんてよくある勘違いかもしれない。
 それなのにあなたは言うのだ。あの頃からのファン、最初のファンとあの頃と同じところで目が合って嬉しかった、と。


 わたしはあなたの歌にとらわれている。この先もとらわれ続ける。あなたの思いがのっているから、わたしはそれを無碍にできない。
 きっとあなたはわかっている。質が悪いと思っていることでさえも。
 それでもあなたは続けるのだろう。

 そして、わたしは彼女の歌に、彼女自身にとらわれるのだ。

5/24/2025, 2:03:48 PM