くまる

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ザワザワザワ

強い風で本屋の前の街路樹が揺れる。嵐が来る。ユウヒは買ったばかりの本を抱えて、本屋の脇の細い路地に入る。突き当たりが、彼の家だ。ドアを開けて、リビングダイニングの机に本を置くと、そのまま、マントを振るう。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませぇ!」

そこは、街の大型の食料品店。ここで、肉も野菜も生活用品も全て賄える。だが、嵐の前の食料品店は、既に人の波が来た後のようで、空の棚の方が多い。

「とりあえず、ナッツを。」

ナッツだけは確保しなければ。ユウヒの飯は、最悪、どうにでもなる。だが、彼の使い魔ソワレの飯は確保しなくては。空の棚が並ぶ店内を進みながら、ユウヒは自分の心がざわめいているのを感じていた。「もう売り切れているかもしれない」その気持ちが、ユウヒを焦らせる。人波を掻い潜り、ナッツの棚に辿り着くと、ピスタチオの小さな袋が一つだけ残っていた。ユウヒは、ホッと安堵のため息をついて、その袋を手にする。
牛乳やコーヒー、棚に残っていた商品を数点買って、外に出る。相変わらず風が強いが、雨はまだ降っていない。買い物袋をしっかり抱き締めて、マントを振るうと、そこはもう家だった。

「ただいま。」
『ユウヒ!窓が開いてるの!』
「!」

ソワレの声に、寝室の窓へ駆け付けると、バタバタバタと音を立てて開閉している。急いで窓を閉めて、鍵をかける。雨が降る前で本当に良かった。寝床がびしょびしょになる所だった。

『おかえりなさい』
「ソワレ、大丈夫か?」
『うん。掴まってたから。』

布団にしっかり掴まっていたソワレは、爪を外しながら、ユウヒに答える。ユウヒは、その身体を持ち上げる。

「ボサボサになってる。」

強風の中に居たからか、ソワレの毛は、あちらこちらへ跳ねていた。ユウヒは指先で、そっと毛並みを整える。

『ありがとう。』
「飯にするか。ピスタチオは買えたんだ。」
『買い物に行ってたの?』
「ああ。棚がガラガラだった。みんな嵐に備えてるんだな。」
『うちも備えてるもんね。』
「え?」

ユウヒの手の上で、ソワレは首を傾げる。

『3日前、嵐が来るからって、食料を買ってきたでしょ?』

ユウヒは、キッチンに戻って、棚を開ける。そこには、未開封のナッツの大袋とコーヒー瓶が並んでいた。

『……忘れてたの?』
「……忘れてたな。」

まぁ、いい。ナッツは二人分。コーヒーも気兼ねなく飲めるし、嵐の間に読む本も沢山買ってきた。

「飯にするか。」
『缶詰は上の棚に入れてたわよ。』

そういえば、缶詰も買ってたな。

「一応、肉が残ってたから買ってきた。今日は、これを食う。」
『いいね。食事はバランス良くね!』
「ああ、そうだな。」

ユウヒは、フライパンを火にかけて、油と肉を入れる。焼き上がる間に、買ってきた物を片付けた。
嵐が来る。けれど、二人の生活は平穏だ。嵐が晴れるまで数日。二人は素敵な休暇を楽しんだ。

3/16/2025, 8:51:27 AM