ちぐ。

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彼と過ごしたこの部屋は、思っていたよりも静かだった。
笑い声も、言い争った夜も、今は壁の奥にしまわれたまま、ただ朝の光だけが床に伸びている。

本当は、別れたくなかった。
彼が大好きで、この場所にいれば、まだ一緒にいられる気がしていた。
それでも時間は、優しくも残酷に、私だけを前へ進ませようとする。

段ボールはもう閉じた。
カーテンを揺らした風が、最後のため息みたいに頬を撫でる。
涙は止まらなかった。
泣かない強さなんて、今の私にはなかった。

それでも、鏡に映る自分は、思ったより崩れていない。
泣いているのに、ちゃんと立っている。
失ったものを抱えたまま、それでも前を向こうとしている。

玄関で一度だけ振り返り、私は小さく息を吸った。
この部屋に残すのは、過去の私。
これからの私は、涙を知って、少しだけ強くなった私だ。

鍵をかける音が、静かに響く。
私は泣きながら、でも確かに前を向いて、歩き出した。

1/30/2026, 2:11:13 AM