香草

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30XX年6月30日
天気:くもりのち雨
温度:21°

今日は退院祝いにドーム街に行った。
人が多いところは嫌いだけど、車椅子だとみんな避けてくれるから楽だ。
露店がたくさん出ていたから何かのお祭りがあるのかと母親に聞いたら、ロボット革命記念日の前日だからと教えてくれた。

人間とほとんど同じ機能を持ったロボットのおかげで人間の生活はとても豊かになった。かつて蒸気機関が発明されて産業が活発化したことになぞらえて、ロボット革命と呼ぶらしい。
人間とほとんど同じと言っても人間のために生まれたロボットは人権を持たない。

人間のために生き、人間のために死ぬのか。
そう思うと、ちょっと心臓が痛くなった気がした。

僕の心臓はロボットから移植されたものだ。
人間のドナーになれるようロボットは特殊な心臓を持っている。生まれた頃から病院で暮らしていた僕は人間ドナーではなくロボットドナーを選んだ。
人間の心臓よりもロボットの心臓の方が安いからだ。

車椅子が縁石に乗り上げてしまったとき、1体のロボットが助けてくれた。ぼくと同じくらいの背丈で見た目も小学生くらいに見える。おそらくどこかの夫婦の愛玩ロボットだろう。
お礼を言うと、僕の目をじっとみつめてこう言った。

「人間は楽しい?」

僕に言ったのだろうか、
それとも僕に移植された“心臓”に言ったのだろうか。
まるで大人に憧れる小学生のように純粋な言い方だった。
そもそもこんな言葉、愛玩ロボットが学習しているはずがない。
薄ら寒さを覚えて、心臓がドクンドクンと飛び跳ねる。

「いいなあ」

そういうと彼はどこかへ消えてしまった。
ショーウィンドウに映る自分を見る。

ロボットと人間はほぼ同じ外見をしている。
僕の心臓はロボットの心臓だ。
ロボットにももし心があるなら、果たして僕は人間なのだろうか。

12/12/2024, 3:17:00 PM