家のドアを静かに開ける。
開けた瞬間目の前に見えるのはただ暗い景色だ。
明かりをつけると一気に自分の家に帰ってきたと感じる。
一応こまめに掃除はしていて
整理整頓はきちんとしているつもりだ。
もう1つのドアを開けるとすぐに明かりをつけ
ソファに横になる。
そのままスマホを付けるが何も通知は入っていなかった。
さっきまであんなに幸せだと感じていたのに
急に今はひとりなんだという現実が突きつけてくる。
過去の出来事になっていくのが、悔しい。
「…寂しいなぁ」
ゆっくりと目を閉じる。
あの唇の感触。
大好きな人の味がまだ口に仄かにしているような気がする。
私…彼女なったんだなと…実感する。
だがその彼の手の温もりは確実に無くなっていき
その口の中に残る微かな味さえも失われていく…
それはまるで『幻』のような気がして
私はただ夢を見ていただけなのかもしれないと
途端に怖さを感じて現実から背けるようにその目を閉じ続けていた。
その瞬間音楽がスマホから鳴る。
すぐに目を開けるとそこにはLINEが1件入っていた。
「…離れたくない」
たったそれだけでさえ、目元が優しく微笑む。
私は小さな温かいものを手に入れたのかもしれない。
まだ今はほんの小さなものでも、続けば続くほどそれは次第に大きくなりもう二度と失う事もないものになるのかもしれない。
その送られてきたLINEをきちんと考えながら
一つ一つの言葉をタップしていく。
「私も寂しい…離れたくなかったよ」
episode 『小さな幸せ』
3/28/2025, 11:35:31 AM