外で何か食べるたび、あの人が好きそうな味だとか。テレビでニュースを見るたび、あの人が怒りそうな話だとか。そういうことがふと頭をよぎる。ひとりでいても、ひとりでいなければならなくても変わらない。影のように付き纏うのだ。あの人のいない人生を、今から練習する必要があった。どのみち人間は死ぬときにはひとりだ。そう何度も説いたというのにまだあの人は言う。ずっと一緒、だと。失くしたものと共に生きていけとはご無体な。冷酷なくせに眩しくて、おまけにひどく温かくてかなわなかった。この影になら食い殺されてもいいか、と少しだけ思ってしまったくらいには。
(題:喪失感)
9/11/2024, 4:49:28 AM