秋深し隣は何をする人ぞ
「って、こんなのありかよ!」
数日泊まり込みのバイトを入れたあと、アパートに帰ったら隣の遠山兄弟が引っ越ししていた。
アパートの部屋がもぬけの殻。家具家財道具一式全て消えてがらんとしている。フローリングの床しか見えない。
俺は愕然とした。
そしてすぐに逃げた。と気づいた。あの、遠山弟のむかつく能面顔が思い浮かんだ。
あの変態ーー姉に、遠山なぎさに執着する近親相姦野郎の仕業だと俺は察した。あいつが、俺の不在を見越して、夜逃げ同然で部屋を引き払ったのだ。俺から自分の姉を引き離すためにーー計画的に。周到に。
案の定、なぎさにLINEしても既読にさえならない。通話も繋がらない。あいつの入れ知恵で、俺との関係を一気に断つつもりだ。
俺は沸々とした怒りが腹の底から湧き上がるのを感じた。
ーー確かに俺はなぎさに対してストーカーまがいの執着をもって、これまで犯罪スレスレの行為をしてきた。盗聴、待ち伏せ、付き纏い。でも、アイツのほうがもっとヤベェのが、今ので証明されただろう?
遠山真宗のなぎさに対する執着は異常だ。
どうしてアイツのヤバさに皆気づかないんだよ。鉄面皮で無表情装ってるけどアイツは姉への執着のせいでドロドロした怨念みたいなのが溢れ出てるじゃないか。
なぎさが危ない。遠山真宗の魔の手が、なぎさに迫っているのだーー
俺は決意する。なぎさを遠山真宗の手から救い出す。どっちが異常者で、どっちが姫を救うナイトか俺が証明してやる。
俺は拳を握りしめる。そして、外階段を降り空を見上げた。
抜けるような秋の高い空が見えた。
風を背に受け、俺はなぎさ通う大学へと一歩、歩き出す。
何日掛かっても、そこで張って、なぎさを見つけ出す覚悟だった。
#秋風
「柔らかな光7」
11/14/2024, 3:35:02 PM