昔ほどこだわりはなくなったけど、相変わらず寒くなるとこればかりだ。真っ白い安物のマグに、茶葉の入った包みを落とす。ひらりと、紐の先のタグが揺れた。
ポットで保温されたお湯を注ぐと、ふわりとベルガモットが香る。じわりと、滲み出す水色。覗き込みながら深く呼吸をする。懐かしい思い出が、香りと一緒に入り込む。棘のような、だけど妙に幸せな記憶。わかっていながら掌で転がされてしまうのは、ある意味血だろうか。
視界の端で、あの頃の思い出が埃をかぶっている。
〉紅茶の香り
10/28/2022, 5:44:41 AM