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鋭い眼差し


彼と僕は、同じクラスで席が前後。
僕が前で、君が後ろ。
普段、授業中だろうが、休み時間だろうが、やる気無さそうに、机に突っ伏してる君。

友達らしきクラスメイトに声を掛けられても、一瞬軽く顔を上げるぐらいで。
気だるげな返事を返すだけ。

……なのに。

僕が授業中配られたプリントを、彼に渡す時。
彼は決まって、顔を上げて僕を真っ直ぐに見つめてくるんだ。

その鋭い眼差しが、僕はちょっとだけ怖い……のに。

いつまでも見ていたいなんて思うのは、どうしてなんだろう。

そんなある日の放課後。
俺が担任の先生からの頼まれ事をこなしてから、教室に戻ると。
彼が教室に一人、机に突っ伏していて。
どうやら、眠っているみたいだった。

このまま、彼をほっといても良いのだろうか。

そろそろ下校した方が良いんじゃないか、なんて。

彼のことを心配……してるようで、そうじゃない。
僕の頭に妙な好奇心が生まれて。

気が付くと、僕は彼の席の前に立ち。
そっと、名前を呼んでみる。

彼の名前を口にした僕の声は、不思議と落ち着いていて。
小心者の僕らしくないな、と思った。

そんな時、だ。

机に突っ伏していた彼の顔がゆっくりと上がって。
俺と視線が合うなり、目を見開いたかと思ったら。
いつもの鋭い眼差しに変わって。
じっと、僕を見つめてくる。

「……何か用、か?」

なんて、眼差し同様に鋭い声色に。
僕は一瞬ドキリとしたけれど。

でも、気が付いてしまったから。
鋭い眼差しを向けてくる彼の頬が薄っすらと赤く染まっていることに。

だから、僕は自然と笑みを浮かべて。

「可愛いね」

と、口にすれば。

「……何、言ってんだよ、バーカ」

そんな、鋭いけど、少し震えた声が。
何だか、やっぱり……可愛いらしく思えて。

「やっぱり、可愛いよ」

僕が君の鋭い眼差しを見つめてしまう理由が、今わかった気がした。


                    End

10/16/2024, 9:49:17 AM