「待って、無理、やっぱり会えない」
「折角あいつが日本にいるんだから会っておけって」
「だって付き合ってたのに突然アルゼンチンに行くのに捨てられた女だよ?!今更会ったって…自分が惨めになるだけだもん」
岩ちゃんに腕を引かれてスタッフオンリーの道をズルズル引きずられていくそう、私は何も言わずに捨てられた遊びの女だったんだ。
「それだったなら尚のこと一発殴ったほうがいいだろ」
「それは、そうだけど」
徹はもう私の事なんて覚えてないかもしれない。
考えれば考える程悲しい気持ちになる。
私は何年経ってもあの別れから先に進めてないのだ。
「兎に角」
突き当たりまで引きずられて岩ちゃんが漸く止まった。
「…岩ちゃん?」
「この先に及川が待ってる」
「…え?」
待ってる?何故?
今更、どうすればいいのかも分からない。
私は今、徹に会ったら泣いてしまう。
面倒な女だった。ではなく良い女手放したって後悔してほしくてがむしゃらに生きて来たのに。
「あいつも言葉が足りないんだよ」
背中をトンッと押される。
「お前らはもう少しちゃんと話した方がいい」
んじゃ、と言って日本エリアに戻って行ってしまった岩ちゃん。
1人残され、ポツンと廊下に独りぼっちだ。
この道を進めば、徹がいる。
会いたい、会いたくない。
色んな感情が私の中で交差する。
悩んでいると先の方が騒がしい。どうしたのだろうかと声の方を向けば人の群れの中からよく知った顔を見つけてしまった。
「と、おる」
聞こえる距離では無かったはず、でも何かに気づいたかの様にこちらの方を向いた彼と目が合ってしまった。
気持ちの整理がついていない私は咄嗟に徹が居る方とは逆向きに走り出す。
「え!ちょっと待って!」
逃げたところできっとすぐ捕まってしまうだろう。
それでも、もう少しだけ始めに伝える言葉を考えさせてほしい。
-この道の先に-
7/4/2024, 8:38:55 AM