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柔らかい雨

疲れた尾鰭を休ませながら、駅の改札から群れをなし溢れ出す魚たち、傷ついて剥がれた鱗が光っていると優しい歌うたいは歌いました、昨日の電車は酷かった、駅の階段転がり落ちた年寄りと、突き飛ばした若僧の批判罵声、若僧たちの眼が年を取ることを否定しすぎた、悔しさを握りしめ過ぎた拳の中爪が突き刺さる私の敵は私ですと地下から階段を昇ったロータリーでギターケース広げて歌う優しい歌うたいは歌っていました。

今日は少し気が紛れ楽しげに 群れをなす魚たちのように波に紛れて昇って行きました。

霧のような柔らかな雨に全て流せてしまえたらいいけど、心の傷なら隠せやしない、それが一生傷というものだ。

傷ついたり失ったりしたことのない者ほど大きな声で泣き叫び自分の傷を誇示しようとする愚か、本当に傷を知る喪失を知る人なら、寄り添うなんて詭弁を叫ばなくても、霧のような柔らかな雨で黙って傷を庇い保護するように包み込むだけ。

柔らかい雨は絹の衣のようにその傷を隠す。

こんなに、そんな傷ましい毎日、人生の1番辛い時出会ったあなただから、柔らかな雨に全て包まれて抱き締めあえたら一つひとつ遠くに揺れてる街の灯が消える前に連れ去ってよと告げた。

夜の静けさに打ち明けるから、私のすべて、目を背けないでいて、あなたについて行くと決めたからと呟いたあの日、柔らかい雨に抱かれて二人朝を迎えた。

あの柔らかな朝を忘れない、、と、老人は消え入りそうな記憶の中で、「もう一度、瞳が見たかった」と呟いて、その人の冷たくなった小さな手を握り締めていた。


令和6年11月6日 

               心幸

11/6/2024, 5:26:26 PM