こんな夢を見た。私は学ランを着た誰かとベンチに座り話している。桜の木の下にあるベンチなので、桜の花びらが舞い散り彼の顔はよく見えない。
「…それにしても、春だね。桜は綺麗だし今日は暖かいし、最高の昼寝スポットだ」
桜の花びらの向こうから彼は、眠たげに欠伸をした。弁当を食べた後で、日当たりのいい場所だから気持ちは分かる。
「寝たら、午後の授業に間に合わなくなるよ」
「ふふ、分かってるって。このまま眠気に負けたら、ぐっすり眠れるなあって思っただけ。それに、キミなら僕のこと絶対に起こしてくれるでしょ?」
「…まあ、ほっとけないし」
彼が笑う気配がした。
「そう言うと思った。…それでさ、進路決めた?」
「志望校のこと?」
「そんな目先のことじゃなくて、今後の人生のことだよ」
さっきの眠そうな声とはうってかわって、真剣な声で彼は尋ねる。
「人生?」
「うん、人生。それで、どう?自分の人生のこと考えてる?」
急にどうしたんだろう。普段の彼なら、進路なんてその内考えるとか言っているのに。
「何も考えず、ぼんやりと大人になったら大変だよ。こんなはずじゃなかったって、絶対後悔する」
「いつもなら進路のことなんて考えたくないとか言ってるのに。もしかして桜を見て切なくなった?」
彼は少し沈黙した。
「…そうかも。きっと、お別れで寂しくなってるだけ」
「お別れ?」
彼は卒業したら、県外にでも引っ越すのだろうか。
「そうだよ、だから心配になっちゃって」
距離が遠くなっても、手紙を出したり会いに行ったり出来るのに。彼は意外と寂しがりらしい。
「引っ越すの?だったら、手紙を書くよ」
彼は首を横に振った。ざあっと先ほどよりも強い風が吹き、桜の花びらが更に舞い散る。彼の姿がまた見えにくくなった。
「距離が遠くなるだけなら、良かったのに」
彼は桜を見上げる。
「この桜が散れば、この夢は醒める。キミが目覚めると同時に、僕は消えて二度と会えなくなるんだ」
辛そうに話す彼の姿は、散る桜の花びらで覆われ更に見えにくくなっていく。桜が散るよりも先に彼が消えそうで、私は焦った。まだ伝えてない事があるのに。手探りで彼の手を見つけ、掴んだ。急に掴まれて驚いたのか、ビクリと彼の手が固く強張った。
「ど、どうしたの。手なんか握って…」
夢が醒める前にこれだけは彼に伝えなくては。
「また会える。夢が醒めても絶対に忘れないから、君も私のこと忘れないで」
彼はため息をつき、私の隣に距離を詰めた。
「忘れる、忘れないの問題じゃないんだけど…まあ、いいか」
彼の手が私の肩を掴み、彼の方に引き寄せられ耳元で囁かれた。
「言われなくても忘れたりしないよ。キミは大事な人なんだから」
目を丸くして彼の方を見ると、彼と目が合った。桜の花びらの向こうに一瞬見えた彼は、泣きそうな笑顔をしていた。
「また会おうね」
彼は立ち上がり、桜の花びらの中に消えていった。
3/21/2026, 4:50:17 AM