職場の机は窓向きで、ちょうど外の様子がよく見える配置になっている。
なので天気が悪くなってくると、なんとなく視界の彩度が低くなるので、
意識していなくてもすぐにわかる。
「アッ、なんか雨降りそうですね」
「エッ、ほんまか」
向かい合わせの席の上司が、嬉々として窓を振り返る。
台風が来るとはしゃぐ小学生みたいな人で、
ゴロゴロと不穏な音を立てる真っ黒な空をワクワクと見上げていた。
「空が泣いておるわァ!」
謎の悪役スイッチが入ったらしい。
太い笑い声をあげながら、意味もなくカーテンを開け閉めしている。落ち着いてほしい。
絡まれると面倒くさいので、いったん泳がせておく。
「貴様も見てみろ、人がゴミのようだ」
放流失敗。秒で絡まれた。
そしてどこかで聞いたことのあるセリフだ。
まぁ気分転換も兼ねて乗ってやるか、とため息をつく。
私は仕事の手を止めて席を立ち、窓辺の上司に並んだ。
「バルス」
…
さすがにひどくない?
さっきまでの威勢はどこへやら、若干しょんぼりした様子の上司。
こちらとしては世間様をバルスるつもりでなく、
無駄にテンションの高い身内を諌めるために放った呪文である。
結果、こうかはばつぐんだ!
そうして各自、粛々と業務に戻る。
天気が悪くなると、大体こういった小芝居が展開される。
なんの生産性も無く、意味も無く。
面倒くさいけど、まぁそれなりに楽しいルーティンだったりするのだ。
9/16/2024, 1:19:54 PM