ショートストーリー「そっと」
1月の冷たい風が頬を刺す。
心まで凍えてしまいそうだ。
こんな日にそっと思い出す人がいる。
心がとても暖かくなる。
高校二年生の五月、僕に初めて恋人ができた。
僕の高校では五月に修学旅行があった。
「好きです。付き合ってください」
修学旅行の最終日、彼女に呼び出されて告白された。
四月に連絡先を交換し、やり取りをしていく中で、ひょっとしたらこの子は僕のことが好きなのではないかという予感があった。
好意を向けられたことに気づいたら僕もいつのまにか彼女のことが好きになっていた。
本当は僕の方から告白したかった。でも、僕には自分に自信がなかった。
中学一年生のときのことだ。
ある女の子に「好きな人は誰?」と聞かれ、素直にゆかりちゃんが好きだと答えてしまった。
次の日には、その女の子に言われた。
「ゆかりちゃん、君のこと気持ち悪いって言ってたよ」
学校に行きたくなかった。
親に心配をかけたくなかったから頑張って毎日通った。
好きな子に気持ち悪いと言われたことがあったから、僕は自分に自信が持つことなんてできなかった。
今僕は自分に少しは自信がある。高校時代に告白してくれた彼女のおかげだ。
彼女との思い出で一番心が安らぐものがある。
僕が彼女と付き合ってから、次の日にはクラス中に伝わった。みんなが良かったねと祝ってくれた。
先生も気を使ってくれて席替えの時には僕と彼女の席を隣同士にしてくれた。
休み時間や授業中、彼女の肩をそっと叩く。
優しい笑顔でそっと僕の方を振り向いてくれる。
その笑顔は僕の辛い未来に何度も現れては励ましてくれた。
このときの僕はまだそのことに気づいていなかった。
彼女とは何度か喧嘩しては別れ話にもなった。喧嘩している時には何て無駄な時間を過ごしたんだと思った。
今はその時間がとても愛おしく思う。
彼女が今は別な男性と結婚し幸せに過ごしている。
僕は彼女が幸せでいるのをとても嬉しく思う。最初はとても悲しかったけど。
冬の冷たい風が頬を刺す。
でも、僕の心は暖かい。
1/14/2025, 2:10:54 PM