青い青い中に僕は飛び込んだ
「おい、カナヅチw飛び込んでみせろよ」
何もない田舎の唯一の遊び場は滝壺だった。近所の子供らは10歳頃になるとそこで飛び込みをする。僕は12歳にもなって一度も飛んだことがなかった。
その理由はただ一つ。あまり泳げないからだ。
「なぁ、いい加減とぼうぜ!優!怖くねぇって。」
と言って、一人が縁石からジャンプするようにふわっと体を浮かせた。
僕を弱虫だと囃し立てる奴らはしつこく絡んでくる。
天然の岩場はゴツゴツし、足の裏が痛い。そっと、小さじ程の勇気を持って下を覗き込む。
青い。高い。怖い。
無理だ。
僕はその場で呆然とした。
「やっぱ、コイツダメだわー。」
僕に絡んできたヤツらも痺れを切らして、飛び込んで行った。
その中の一人が、悪ふざけの延長で僕の肩を軽く押した。その一人もまさか僕がよろけて落ちるなんて思っていなかっただろう。目を見開いて驚いていた。
なかなかに間抜け面だった。
そんなことを思いながら宙に浮かんだ体は重力に従って落ちていく。
ヤバい、死ぬ。本能が訴えかける。これは死ぬ。
ゴォーと風が耳で鳴る。
たった少しなのにとても長い。
ザバーーン
僕は衝撃で思わず目を開けた。
青い世界だった。泡が青の中を楽しそうに舞う。青に吸い込まれた感じがする。視界を埋め尽くす青。青。水面を反射する光が美しかった。
あぁ、ここに居たい。ここなら、何も聞こえない。僕の耳を塞ぎたくなるような悪口だって、僕を叱る親の声も
何もここにはない。しかも、青以外何も見えない。
ここにずっといたい。
そんな感情を水底に置いて、僕の体は浮上していく。
顔を上げると、驚いた奴らの顔が見えた。
僕にこれを教えてくれてありがとう。
僕は自然と声を上げて笑っていた。
「優選手!夢の舞台ですがどのように挑みますか?」
「青い中に飛び込むだけです。」
僕はあの時のように笑って、飛び込み台へ登った。
そして僕は青い青い中に飛び込んだ。
5/3/2025, 2:52:22 PM