渚雅

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過去の自分からの手紙。そんな物語のようなこともこの時代においては,当たり前のサービスとして簡単に提供されている。土を掘らずとも郵便局から家までご丁寧に届けてくれる。

誰に見られることも無く何十,百数ヶ月ただ静かに眠っていたそれがこの手へと戻ってくる。けれどその逆は?


それはとても とても不可思議で夢のような現実の話。



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日々の中で最も厳かで,されど浮ついた心で筆を進める時間。手元には時間をかけて悩みながら選んだレターセットとお気に入りのシンプルな万年筆。


ありふれた日の特別な想いを乗せるように。この時を少しでも感じられるように。

形式に沿ってできる限り雅に 心を込めて一筆一筆文字を紡いでゆく。誰よりも知っている過ぎ去った,遠い世界の大切な人へ。


何度も何度も読み返してようやく筆を置き,きっちりと折り目をつける。封筒の中へそっと仕舞い込んで,お気に入りの香りを封じた栞ともう似合わなくなってしまった思い出のペンダントトップを滑り込ませる。

未来から過去への届けもの。これが似合う人になれるように そんな願いを込めながら。


出来る限り丁寧にならしてひっくり返して,横に避けておいた蝋に手を伸ばす。さまざまな色が犇めくように詰め込まれた区切りの多い箱。その中から比較的落ち着いた碧と蒼 それから翠をひとつずつ選んで。

熱を加えて混じりあったマーブル模様それを崩さないように流し,上から押し当てた金属で封をする。儚く気高い青い薔薇。軽く撫でて小さく頷く。




雪を纏った山麓の切手 夢叶うと言われる華 質の良い材質の紙。どこをとっても特別な手紙。

それはラブレターにも果たし状にも請求書にも嘆願書にも似たなにか。一方的な 心のこもった恋文のようなもの。焦がれた想いだけで埋め尽くされた会話の体をとった独り言。




「また会いましょう」

指定の様式の封筒に,手紙をしたためポストの中へと落とす。こつんとした音が響いた。もう後戻りはできない。時が過ぎるのを待つだけ。

再開の瞬間を夢みながら”私”からの返事を
忘れた頃に受け取るだけ。


そしてまた同じことの繰り返し。
逢えない想い人10年越しの会話を楽しむ。



テーマ : «10年後の私から届いた手紙»




·ひとりごと

データが飛んだので名前を変えて再開。結構頑張ってたから少しだけ悲しかった。ハートたくさん頂いたのに。自分の名前も覚えてないし。

もし見つけてくれた人がいたら凄く嬉しいです。


何はともあれここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。これから宜しくお願いします。

2/15/2023, 2:23:52 PM