与太ガラス

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 例えばトランプの神経衰弱で、最後までめくられなかった二枚のような。あるいはクロスワードパズルで最後まで埋められない二文字のような。最初からここにいるのに気づかれない。最後まで余ってしまった君と僕。

「今日も誰からも話しかけられなかったよ」

 ミチルは言った。

「わたしも。先生も一度もわたしを当てなかった」

 ヒカリが言った。

「変だよね。僕たちはこうしておしゃべりしてるのに」

 もうみんなが帰る時間は過ぎていた。

「そうだね。でもきっと、最初からそうだったんだよ」

 二人はまだ教室の中にいた。

「うん」

 ミチルはそう頷いてから、少し考えて言った。

「僕たちはここにいるべきなのかな」

「ふふ、変なことを言うのね」

「だって、この窓の外にも世界はあるよ」

 ミチルは窓から見える校庭を指差した。

「ミチル、世界はどこにでもあるのよ。それにわたしたちはどこにでもいることができる」

 ヒカリはミチルを諭すように言った。

「でも、どこにいたって誰からも気づかれないよ」

 ミチルは寂しそうに言った。

「バカね、わたしはいつでもミチルを感じてるよ」

「うん」

 そう答えたがミチルは上の空だった。

「あ、わたしそろそろ行かなきゃ」

 ヒカリが言った。

「あ、そっか。暗くなってきたもんね」

 ミチルは窓の外を見て、そんな当たり前のことを口にした。ミチルはこれから始まる時間がとても嫌だった。

「じゃあね」

「うん、バイバイ」

 ミチルはヒカリを見送った。

 だんだんと闇に包まれていく空と影が伸びていく教室の中で、ミチルは一人の時間をうずくまって過ごした。毎日押し寄せるこの時間が、ミチルには永遠のように思われた。

 ミチルはただ、誰にも気づかれない孤独と戦いながら、長い長い夜を過ごした。夜が深まるにつれて、だんだんと冷たくなるのを感じた。ミチルの孤独を紛らわすものは、ヒカリとの思い出だけだった。ヒカリとの輝く思い出を繰り返し再生しながら、ただひたすらに朝を待った。

 そうしてようやく朝になったとき、誰よりも早くヒカリは教室に現れる。ミチルはただ、その瞬間にだけ、ヒカリとの絆を感じるのだった。

4/12/2025, 2:11:28 AM