安達 リョウ

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海へ(絶える理由)


「知ってるか? 太古の昔、月にも海があったんだ」

今よりもっと地球との距離が無かったから、見上げるだけで同じように碧く光輝く、それはそれは美しい月を目の当たりにできた。
―――木々が生い茂り、人に近しい生物が存在して、似たような文明を築いていたから争いも起きず。

ふたつの星は血を分けた兄弟のように、仲睦まじかった。

「………それなのに、なぜ月は滅んだの? 星としての寿命はまだ続いているのに」
「………。裏切ったんだよ」
「裏切った? 月が? 地球が?」
「いいや。月の人間が、神を」

超えてはいけないラインを、超えてしまったから

「―――それは一体、」
どんな逆鱗に………触れたのか


「ねえ知ってる? 太古の昔、地球にも海があったのよ」

特殊な望遠鏡から見える、ひとつの星。
クレーターに覆われ、灰色に鈍く光るその姿に生気はない。
「本当に? 信じられないな」
「文献が残ってるもの。『碧く光輝き、木々が生い茂る美しい星』。わたし達に近い生物もいたみたい」
「へえ。そんな星なのにどうして滅んだんだろうね」
「うーん確か、」
わたしは記憶を遡る。
確か―――

「裏切った、ってあったような」
「裏切った?」

お前もまた同じ過ちを繰り返すのか

とか何とか………。

「ふうん?」
どういう意味なのか、理解が追いつかぬまま彼が腑に落ちない表情で話題を引き取る。
「まあ大昔の話よ。伝説級の」
―――海と木々と、人々と。
わたし達に似た暮らしは一体どんなだったのかしら?

この星と酷似する地球を思う。
いつかわたし達の星も、また………。

そこまで考えて彼女は首を振り、再び望遠鏡を覗くと次は見目麗しい、美しい星を探し始めた。


END.

8/23/2024, 11:04:12 PM