白月 翠-シラツキ スイ-

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『夢見るスペースデブリ』

この“芸能界(セカイ)”は“星(スター)達”で溢れている。

大舞台でスポットライトを一身に浴びて感情豊かな演技を繰り広げる役者。笑いの神様に少しでも近付こうと今日も今日とて練り上げてきたネタをお客さんの前で披露するお笑い芸人。真っ直ぐに伸びたランウェイを一瞬にして自分のものにしてしまう美しいモデル。歌とダンスとルックスで人々を虜にするアイドル。

持ち前の能力と積み重ねてきた経験や努力で売れれば売れるほど彼らの魅力は輝きを増していき、やがて人々から“星(スター)”だと称賛されるほどに眩しい存在となっていく。

だが、時にその星(スター)達のあまりの眩しさに嫉妬心や嫌悪感を抱いてしまう者もいる…それはまさしく“今の自分のように”。

「3360番、山村あかり様。この度はドラマ“乙女の涙”のメインヒロインオーディションにご参加いただきありがとうございました。厳正なる審査の結果───。」

“不合格”。その三文字を見た瞬間、両手で握っていたオーディション結果の用紙にくしゃりと酷いしわを作るほど手に力を込めてしまう。

何回目の不合格だろうか。受けたオーディションが100を越えた辺りから数えなくなったから正確な数はもう分からないし分かりたくはない。何故なら今回のオーディションも含めて私が希望した役で合格を貰ったことは1度もない。

自分を追い込むほどの演技練習は毎日欠かさなかった。美容にだって手を抜いてなかったし、審査員や他のライバル達への気遣いだって問題はなかった。

だが、今回のオーディションには既に眩い光を放つ“星(スター)”がいた。世間で知らない人はいない大人気女優のKさんだ。そのオーラと演技力は圧倒的なもので、子役時代から落第続きの私の演技なんてKさんの前ではゴミに等しいとも言えるほど。

例えるならKさんの演技は誰もが知る月や太陽といった偉大な惑星のように輝いていて、反対に私の演技は果てしない宇宙を漂う人工物のスペースデブリ(宇宙ゴミ)のようにちっぽけなものだった。

きっと今回のドラマの主演はKさんになるんだろう。審査員の人達もKさんの演技に惚れ込んでいたのをこの目でしっかり見ていたから。

…やっぱり私は女優に向いていないのだろうか。あんなオーラを放つことは私には一生無理だ。女優の夢なんて諦めてしまおうか。そんなネガティブ思考な言葉が口から溢れそうになる。

だが、ここはぐっと堪えた。いやいや、まだこれからだ。それに先程例えたスペースデブリは成功する可能性を秘めた比喩表現だ。スペースデブリはやがて願いを叶えると噂の流れ星になれるのだから。

私は大きく深呼吸をすると両手に持っていたオーディション結果の用紙を丁寧に畳んで、ズボンのポケットに仕舞い込んだ。そして、次に受けるオーディションを探すのと演技レッスンのコーチに更なる指導を申し込むため、反対のポケットの中からスマホを取り出すのだった。

3/16/2023, 3:49:39 AM