「あーはやくはやく。喉カラカラすぎて吐きそう。冷たいのな冷たいの熱かったらすぐ飲めないだろ、ああ〜はやくしろよ、命かかってんだぞ!」
風船のような大男、油でテラテラピカリ輝いている顔の贅肉をぷるぷる揺らしながら、自販機の前でまくし立てる。
大男の隣でスクッと立つスレンダーな女は、ミネラルウォーターを買った。
「それじゃ、仮に渇死したって自殺ね」
ガラッ、落ちてきたペットボトルを女よりも身軽にしゃがみこみ、グジャッと潰れるくらいの勢いで握る。
ただならぬ激しい動きでキャップを外し、ゴギュゴギュ〜ッ!喉に流し込んだ。
唇のはしから滴る水、キラキラっと瞬き大男の首元へたどり着き、やがて襟へ吸い込まれ……
美味そうに飲む大男だったが、すぐさま唇から飲み口をツパッ、と離し、フツフツと汗を沸かし始めた。
「ぼくがおしゃべりだって言いたいのか!」
尋常でないハツラツとした怒声をあげ、また1口飲水、女はフフと笑い、頷く。
「しょうがないだろ、ぼくは今にも死にそうで死にそうで、死にそうだったんだぞ!」
ズリッズリッ!靴底を鳴らして女の方へ向き、眉を釣り上げる。
「じゃあなんだ!君は死ぬ直前でも一ッ切!
一切騒がずいられるのか!」
顔と唇を真っ赤に染め上げて、大男は怒っている様子だ。しかし女は変わらず笑っている。
「あなた、いつもひとりで喋ってるんだから。
私は黙ってるしかないのよ」
女は、白蛇じみた鼻筋と、しっかり伸びた背を、左へ向け、大男の手を取り、歩き出す。
「もう喋り疲れたでしょ。行きましょうよ」
「でも、電車の時間はまだまだあとのハズだろ」
昼下がりの陽光、逆光眩しく、女は細く目を縮めながら言った。
「お腹、減ってきたんじゃない?」
「えっ……!
なんだ、さすがあっちゃんだなあ!」
1/24/2024, 12:29:36 PM