はじめ

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【好きな本】

分厚く重い扉を開くと、そこには沢山の本が入った本棚が、壁一面に広がっている。
三階建てで、吹き抜けの作り。上の方まで背の高い本棚が埋まり、全ての棚には本がある。
(景観だ)
言葉の使い方はちょっと違うだろうけど、この光景が好きだという気持ちは、なんと表すのだろう。
中に入り、いつもの机に鞄を置いて。見慣れた背表紙を眺める。今日はどれを読もう。
「よお」
不意に、声がかかって、びくっと振り返ると、同じクラスの男子がいた。声を潜めて、
「なあ、本好き?俺課題で読む本決めてないんだよねー、お勧めない?」
高い背をこちらに合わせて屈め、早口に聞いてくる。確かに彼が読書のイメージはない。頷いて、やや分厚いが児童文学に近い、要は読みやすい本を見せる。彼は手に取り、パラパラとめくって、
「読みやすいかも。サンキュ」
ニッ、と笑って貸し出し窓口に去って行く。その背中は広い。
(あの本、返ってきたら読もう)
少し、胸がドキドキしてきた。

6/15/2024, 1:44:58 PM