物語は前回より続く。
放課後、結局愛しのあのコとは、校舎裏で会うことになった。
いきなり二人で肩を並べて帰るのには、本当に抵抗があったらしい。
まあ確かに、それは僕も異論が無かったので、第二校舎裏の祠の前であのコを待つ。
夕暮れ時。秋になって日が落ちるのも早くなった。
薄暗い校舎裏。ひっそりと佇む小さな祠。
不意に、背後から声をかけられた。
「誰かと待ち合わせ?」
振り返ると、同い年くらいの女の子が立っている。
いつからそこに?これは…もしかしてあれか?
女の子の幽霊の噂を思い出す。
いや…でも…こんなに可愛いコだとは…。
「君は…こんなところで何してるの?」
「質問に質問で返さないでよ。私はここが好きなの。だからよくここに来る。それだけ」
…どーとでも取れる回答。
とはいえ、彼女は生身の人間にしか見えない。
「僕は友達を待ってる。だけどここ、幽霊の噂があるの知ってる?」
「知ってるよ。皆でしてるよね、私の噂」
「え…!」
答えは出た。いや待て、このコも僕をからかってるんじゃ…。
もう、何を信じていいのか分からない。
女の子は男をからかって生きる生き物なのか?
幽霊になってもその性質は変わらないのか?
それにしても彼女、可愛すぎる。
「き、君は、あの、彼氏とかいるの?」
混乱している。それを理由に聞きたいことを聞く。
「どーしてそうなるの?幽霊に彼氏なんている訳ないじゃない」
もっと混乱する。でも、心のどこかでチャンスだと叫ぶ自分がいる。
「ゆ、幽霊だって、恋はしたっていいんじゃない?いや、するべきだよ」
いよいよ混乱を極めてきて、僕の頭の中には、母に勧められて観た「ゴースト」という映画のワンシーンが浮かんだ。
二人重なってろくろを回す、あのシーンだ。
僕はもう、幽霊に恋してる。
「何やってんの?」
背後から声をかけられて、慌てて振り向く。
愛しのあのコが立っていた。
「あ、いやあの、この人に道を尋ねられて…」
訳の分からない言い訳をしながら幽霊女子を振り返ると、すでにその姿はなかった。
「この人って?」
「えーと、見えないよね。見えるはずないよ、霊感なんてないんだから。あの映画、ゴーストの二人は、もとから恋人同士だったから触れ合えたんだ。僕には無理だ。きっと君とは付き合えない。残念だけど、君と僕とでは住む世界が違うんだ」
もはや、何が言いたいのかも分からない。
恋は盲目とはよく言ったもんだ。
「あ、そう。別にいいけど。からかいついでに寄っただけだから。じゃあ私、帰るね」
そう言って、あのコが僕に背中を向けて去っていった。
引き止める気持ちも起きない。
僕はどうしてしまったんだろう。
夕暮れの校舎裏。静まり返った祠の前にポツンと取り残されて、僕はあの幽霊少女の笑顔を思い出していた。
…笑顔?笑顔なんて見たっけ?すでに過剰妄想が始まっているのか。
もう、家に帰ろう。
…一週間後、学校の写生大会で表彰された絵の中に、「祠と少年」というタイトルの作品があった。
絵の中の少年は祠に背を向けて、その背中はどこか希望に満ちている。
廊下の壁に貼られたその絵の右下に、クラスと女の子の名前が書いてあった。
女の子は男をからかって生きる生き物らしい。
今の僕の背中は、この絵よりも一層希望に満ちているはずだ。
10/12/2024, 1:50:45 PM