作家志望の高校生

Open App

澄み切った空気、純白の礼拝堂。祭壇も、彫像も、なにもかもが雪を被ったように輝く白色で統一されている。そんな空間に色を齎すのは、天井高くに嵌め込まれた青色を主軸としたステンドグラスのみ。
そんな教会によく似合う人を、僕は知っている。幼馴染であり、兄のような存在であり、親代わり。僕がこの世の中のありとあらゆる愛を注ぐべき存在。
「おかえり。」
そう柔和に緩く笑む姿は、聖書のどの一節より美しく、神聖さを纏った光が差して見える。
瑞々しい艶を放つ白磁の肌に、天使と見紛うような美貌。世界一の絹糸だって比にならない程繊細で柔らかな白銀の髪。白い服に身を包み、緩やかに、緩慢に動く様は人形劇の一幕にすら見える。髪の毛と揃いの真っ白で長い睫毛に縁取られた瞳は、海よりも、空よりも澄んで美しい青色をしていた。
僕は心底、彼に心酔している。僕が信じるのは、聖書に出てくるカミサマでもなく、教会に置かれた紛い物の彫像でもなく、間違いなくこの世に存在し、生きている彼ただ一人だった。
僕の信仰心は、いっそ狂信と言っても過言ではないと自負している。僕は彼が望むのなら喜んでこの身を差し出すし、国の一つや二つ、笑顔で返り血を浴びながら滅ぼしてみせる。そのくらい、彼が好きだった。
酷く虐げられていた僕を救った彼は、僕の、僕だけの神様。僕だけが彼を知っていればいいし、彼だけが僕を知っていればいい。僕達の間には、誰もいらない。
でも、そう思っていたのは僕だけだった。彼は、別に僕だけを望んではいなかった。あの真っ白で神聖な空間に、異物を入れた。他でもない、僕の愛する彼が。
僕にはそれが許せなかった。少しだけ、ほんの少しだけ。彼に似た柔らかなホワイトブロンドの髪が、空を溶かし込んだように清らかな水色の瞳が、羨ましかったのかもしれない。
僕の狂信に届くほどの信仰心は、彼が奴を拾ってきたあの日から一変、激しく燃え上がる嫉妬と憎悪の念に変わった。今思えば、この真っ白な教会で一番の異物は、夜空の闇をを煮詰めて固めたような黒髪に鮮血の瞳を持つ、忌み子と呼ばれた僕だったのかもしれない。
この白に終焉を齎したのは、僕だった。あの美しい白を赤に染め、澄んでいた青を濁らせたのも。そんな色によく似た模造品をぐちゃぐちゃになるまで壊したのも、全部僕。
夜の帳に浸り、黒に染まり、月明かりが鮮烈な深紅を映し出す礼拝堂。僕は、かつて神聖だった肉の塊に向かって跪き、彼と、彼の愛し子と同じになりたくて、この喉笛を捌いて汚れた血を吐き出した。

テーマ:祈りの果て

11/14/2025, 5:22:12 AM