「よくがんばったね」とあの人が言った。そうです、わたし、今までずっと頑張ってきました。
「知ってるよ。他の誰もが知らないこと、きみが今までどんなに苦労したか、どれだけ他人に傷つけられたか、わたしだけは知っているよ」そうです。わたし、苦労して今までやってきたんです。あなただけは、わたしのうちがわがもういい加減ぼろぼろで涙が溢れて止まらないこと、気づいてくださるのですね。
「そうです。どうしてわかるのですか」とわたしが言うと、あの人は「当たり前でしょう。きみのことなら、なんでもわかるんだよ」と言って、たおやかに笑いました。この人のほほえみは、絹がほどける様によく似ていると思います。この天使見たいなほほえみを見ると、わたしはもう、なにもかも一切合切をこの人に手渡して委ねたくなるのです。
「ええ、ええ。そうですよね、あなたにはなにもかもお見通しなんです。お願いします、ねえ、わたしのすべて、受け取ってください。それが、それこそが今やわたしの唯一の願いなんです」わたしが言うと、あの人はまたにこやかにほほえみました。シルクのようなえがお。
「ありがとう、では、もう今日にさようならをするんだよ」
はい。さようなら、さようなら。あなたが全て貰ってくださるのなら、もう、今日も明日もわたしは何にも要りません。さようなら、さようなら……。
ええ、さようなら。
お題「今日にさようなら」 おまねむ
2/18/2024, 2:39:18 PM