息を切らせてアスファルトを蹴り上げるA子。
祖父の容態が急変したと病院から連絡を受けたのだ。
待って、お願い、いかないで。
走れば走るほど心臓は早鐘を打ち、それと同時に益々焦る気持ち。
大きくて真四角の白い建物が、ぽっかりと口を開けて彼女を待っていた。
そこでほんの少しだけ立ち止まり、ゆっくりと呼吸を整える。
よし、行こう。
早足で病室まで一気に駆け抜ける。
今は階段の方が少しでも早く行けるような気がして、エレベーターの到着を待つ短い時間ですら惜しかった。
「おじいちゃん……!」
扉を開き、祖父の名を叫ぶ。
果たしてそこに居たのは看護師と医師、そして脈拍を伝える無機質なモニター。
弱々しく、それでも不規則に鼓動を打っている。
鼻の奥がツンと痛くなり、堪えていた涙が一気に溢れ出す。
生きている。私が来るのをずっと待っててくれていたんだ。
しわくちゃで大きなその手をギュッと握り締める。
「……ありがとう」
ピー……と呼吸の終わりを告げる音がした。
9/8/2024, 8:19:33 PM