『街へ』
「カントリーロード、この道ー、ずうっとぉ、行けばー」
昼休み、僕ら以外は誰もいない教室。
ぽっかり空いた空間があると歌いたくなる衝動に駆られる僕が、下手な歌声を響かせていたところ。
「……その曲、日本語の歌詞あるんだ。」
友人の駿が、僕の調子外れな音に険しい目を向けながら言った。
その声は酷く冷たくて、聞いてきたのはそっちなのに答えを求めているようには到底聞こえない。
まぁ駿はこういう所がある。
だが、めげずに話しかければ聞いてはくれるから、実は優しいやつ(?)なのだと僕は知っているのだ。
「え、むしろこの曲日本のじゃなかったの。僕日本語の歌詞しか知らないけど。ほら、ジブリの映画でさぁ、この曲を歌うシーンがあって、僕あれ見て一時期海外にバイオリン作りに行きたくて、母ちゃんにダダこねてたわ。」
「お前に楽器作りは無理だろ。……その曲、アメリカの曲だよ。誰のかは知らないけど、俺は英語でしか聞いたことない。」
駿は素っ気なく幼い頃の僕の夢をぶった斬ると、曲を小さく口ずさみ始める。
「Country road, take me home to the place I belong~」
ほとんど息のカッスカスな駿の歌声は、正直僕より下手だと思った。
でも、そんなものより、僕は歌詞が気になった。
「英語の方って家に帰りたいって曲なんだ。」
「ん?逆に日本の方は違うの?」
ウェストバージニアーとか歌ってた駿が固まって、僕の方を怪訝そうに見上げる。
「うん。……意訳ってやつ……なのかな。よくわからんけど、日本語の方は家に帰らない、帰りたくないって感じの曲だな。」
「なんだよそれ。」
「僕からしたら、家に帰る方がなにそれって感じなんだけど??」
謎の日米ギャップに翻弄される僕たち。
頭の上にハテナマークをポンポン飛ばしている僕と違って、駿はすぐに冷めたようなどうでも良くなったような目をした。
「……ま、とにかく道を歩いてるってことだろ。家があるか無いかはともかく、街に向かって。」
「雑だな、そのまとめ方!」
僕は思わずツッコんだけれど。
もしかしたら駿は、家がある街に帰りたくないのかもしれないななんて、彼の暗く濁って達観したような目を見ながら僕は思った。
1/28/2026, 11:48:51 AM