不整脈

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やさしさなんて、たいしたことない。
ほら、笑ってドアを開けるだけ。
コップに水を入れて渡すだけ。
欲しがりそうなものをあげるだけ。
そんなの、だれにだってできる。

「優しいね」って言われると、へんな気分。
わたしはただ退屈だっただけなのに。
ひとりでいる私に飽きたから、
声をかけただけ。
そんなの、やさしさじゃない。

ほんとうのやさしさなんて、
もっと重たいんだよ。
手がしびれて、背中が曲がって、
心の奥まで削れるくらいの。
でもみんな、それはやらない。
今のわたしは、もうやらない。

ときどき思う。
やさしさって、あげた人じゃなくて、
もらった人が決めるんだって。
じゃあ、わたしが思ってないやさしさでも、
誰かがそうだって言ったら、
それはやさしさなんだ。
変なの。

でも、やさしさはたまに嘘くさい。
笑顔の下で、ため息を隠してる。
「気にしないで」って言いながら、
ちょっと気にしてほしそうにしてる。

わたしもやるの、そういうこと。
だから、人のやさしさもすぐわかる。
それをもらうと、うれしいより先に
「どうせ」って思っちゃう。
ひどいよね。わたし。

やさしさなんて、あってもなくても同じ。
でもね、なくなったら、きっと困る。
困るくせに、簡単に信じないの。

わたしは、そういう人間なんだ。

8/10/2025, 1:59:39 PM