北極星は、南の形を夢見た

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#6 【ずっとこのまま】

【寒月】それは、
平安時代の二人の女性が正反対の詩句を出す程、
詠み手によってかわる不思議な存在である


「みゃー」
「こんばんわ」

すらりと、僕の手にすりつく黒猫。
「はいはい、ちょっとまってね」

最近、仲良くなった野良のお隣さんだ。
ササミ目当てにやって来るのだが、
代わりに僕の話を聞いてくれるので、
関係はWin-Winである。

美味しそうに、三日月のような目をさらに細める

愛おしい
そんな感情を抱くことは、あまり慣れないことだ。
なぜなら、

「…しんどかったよ。だってね、今日、
女の子に告白されたんだけど、普通に断ったんだ。
普通に断ったんだけど、その子泣き出しちゃって

『あなたは、「寒月のように冷たい人」ね』

だとさ、なんとも詩的な表現で嫌われちゃったよ」

ハハッ、と笑うけれど、ごまかせない
あの時の言葉は、たしかに冷え冷えとしていて
僕の心を締め付ける

(断ったのは、君のためなのに)

昔から、人が愛せなかった
それは、僕があまりにも冷たいせいで
だから、断ったんだ
僕はきっと、君のことを愛してあげられないよ

「…そんなつもり、無かったんだ」

そう言っても、誰も耳を貸さないことなど
分かりきっていた

「僕は、ずっとこのままでいいのかな?」

自問自答する
返答は単純明快、「変われ」
そう、誰からも言われる言葉。
…それが出来たら、ここまで苦しんでいないのに

「みゃー」

はっと顔を上げると
その返答に、答えるかのように君が鳴いた
それが、肯定か否定かは、分からないけれど
なんとも優しい声だった

そして、ゆっくり、身震いする
僕の腕のなかにスルッと入ってきた
柔らかくて、あったかい
「寒いの?」

クワーッと大あくびをして、僕を見る
さっきの雑念など、もはやどうでもよくなって
ふわふわと、頭を撫でた

月をみる
それはやさしい春月や、愛でられる秋の月とは違う

研ぎ澄まされたように、鋭く光る孤高の月

清少納言から嫌われ、紫式部から愛される
見る人にとっては、「変わる月」

そう、寒月

「…綺麗だ」
「みゃー!」

「わたしのこと!」とでも言うように、
愛しの人は目を細めた。

あぁ、ずっとこのまま
君といられたらな。





1/12/2024, 2:15:39 PM