フィロ

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「じゃあ、また明日!」

と、いつもの人懐こい笑顔とよく通る声で先輩は僕に言って横断歩道を渡って行った

仕事終わりに一緒に軽い夕食を済ませ、少し飲んで行かないか?という先輩の誘いを
「明日のプレゼンに備えたいんで…」
と申し訳ない気持ちで断った

他の人の誘いなら、断れて良かった…とホッとするところだが、この先輩からの誘いはいつも心待にしている

たぶんこれは、僕だけでなく他の皆も同じ気持ちでいるはずだ

もう少しこの人と一緒にいたい、話をしていたい、そう思わせる不思議な魅力のある人なのだ



家に着き、玄関に入るや否や携帯が鳴った
知らない番号からだった

「えっ!!」

その会話の途中から、体中が震えはじめ、立っていることが出来なくなった
頭の奥でキーンという金属音がなり響き、電話の主の声さえ遠くで聞こえている


電話は警察からだった
さっき別れたばかりの先輩が、事故に遭い、病院に運ばれている、意識の無い状態だ…

こちらのあまりの狼狽ぶりに、何度も何度も同じことを繰り返し伝えてくれていた


先輩の携帯の最後の通話相手が僕だったため、僕に連絡が来たということだった



とにかく、病院へ行かなければ…

「じゃあ、また明日」
先輩のあの明るい声が頭の中で繰り返し、繰り返し、響く


あの時誘いを断らず飲みに行ってさえいれば…!


「じゃあ、また明日」
「じゃあ、また明日」
「じゃあ、また明日」






『また、明日』


5/22/2024, 11:58:27 AM