作家志望の高校生

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2人で、平日の真っ昼間の河川敷を歩く。本来なら学校に居なければいけない時間だが、今日くらいはと無視して。
きっかけは、SNSで見た短い動画。よく見るような、どうせガセだろう予言もどき。1ヶ月後、未知の大災害によって世界が滅ぶというものだった。
前に予言を的中させた人の予言だとかいうそれは少しばかり話題を呼び、ちょっとした社会現象を巻き起こした。いつぞやの大予言を想起させるようなそれを、きっとまた嘘だと冷笑しながらも気にしてしまう自分がいる。
世界中に微妙な波紋が広がる中、俺達はそれに便乗してみることにした。
学校に行くフリをして、朝から学校とは真逆の電車に乗る。街からどんどん遠ざかって、やがて着いたのは古ぼけた無人駅。田園風景と森ばかりが広がる場所で、俺達は束の間の終末ごっこを楽しむことにした。
川沿いに着くと、男子高校生の健全な男児心が疼く。俺達は周囲に人が居ないのをいいことに、靴も靴下も適当に脱ぎ捨てて、制服の裾が濡れるのも気にせず川に入った。ぎゃあぎゃあ騒ぎながら水を掛け合って、サワガニを捕まえて、小魚を追い回す。小学生に戻ったように、ゲラゲラ笑った。しばらくするとさすがに体力も無くなってきて、どちらともなく水から引き上げる。たまたまスクールバッグに入っていたタオルを交代で使って拭いて、脱ぎ捨てた靴達を回収して履き直す。
疲労が目立つ、しかし謎の満足感に満ちた体を引きずって、田舎町を散策した。畦道を歩けば蛙と目が合い、時折すれ違う犬と散歩している老人に犬を撫でさせてもらう。田舎らしい温厚かつゆったりと時が進むような感覚は、日頃の街の喧騒とはあまりにもかけ離れていた。
日が沈む頃になって、ようやく俺達は帰宅することにした。切符を買って、また古びた無人駅に戻る。スカスカの時刻表を見て軽く絶望してから、2人で駅のベンチに座った。夕日が目を灼くように眩しくて、思わず目を細める。
1日だけの終末旅行は、本当に世界が滅んでも良いと思えるような時間だった。正直、こんなことはしなくたってよかった。コイツと2人で居られるだけで、俺はもう死んだって悔いは残らなかっただろうから。
でも、もし本当に世界が終わるなら。それならば、ずっと喉に引っ掛かって言えない言葉も言えるだろうか。仮に関係が崩れたって、世界が滅べば関係ない。
「ねぇ。」
喉から溢れる声は、もう止められそうになかった。
言った瞬間、後悔した。世界の時が止まったような静寂で耳が痛かった。アイツの顔は、逆光になってよく見えない。
「…………ほんと、に?」
俺を真っ直ぐ見つめるアイツの顔が真っ赤だったのが、夕日のせいなのか、はたまた別の理由なのかはわからなかった。


テーマ:もしも世界が終わるなら

9/19/2025, 5:29:03 AM