箱庭メリィ

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スマホが震えた。

着信と同時に光った画面を見てみると、緑のアイコンと「通知 1件」の表示。

私はその通知を見て見ぬふりをして、作業中の手元に視線を戻した。
触れられなかったスマホは、時間経過とともに静かに暗くなった。


ブルルッ。
しばらくして、スマホが震えた。通知の数が増える。
私は視線だけスマホにやり、また無視をして作業に戻った。


ブルルッ。
ブルルッ。

鳴るスマホ。
増える通知。

ブルルッ。
ブルルッ。
ブルルッ。

いつの間にか、通知は12件、34件と数だけを増やしていく。

たまに見える、明るくなるスマホに見えるLINEの文字。

『会いたい』
『どこに行っちゃったの?』
『寂しいよ』

ブルルッ。
また通知。
もう何件目だろう。今日このスマホには何十もの通知があっている。だが持ち主は見もしていない。


ブルルッ。
『抱きしめてよ』

明るくなったスマホに映る送信された文字列。
テーブルに突っ伏した私のスマホと、同じ。
通知は数秒だけそれを表示して、53件目、と通知の数を重ねた。


帰ってこない、彼の、スマホ。
彼のように落ち着いた、シックな色合いのスマホだけが私の隣にいる。
私はここで、彼の部屋で、彼の帰りを待ち続けている。

ブルルッ。
既読のつかないメッセージだけが増える。


/7/11『1件のLINE』





「どうしてそんなに強くいられるの?」

よく聞かれる質問。

強く、が何に対してかわからないけれど、私は私でいるだけ。
周りのことなんか気にしない。
それでやっかみや茶々を入れられることもあるけれど、気にしない。
そういう人たちは、そんなヒマがあるのなら、自分もそうなれるよう努力すればいいのに。



ジャケットを羽織った逆手の手首にラインを入れて、ペンを置いた。
何にも負けない、強気な女性。バリキャリが主人公の短編マンガ。
短編なら、自身と正反対な人でも描けるかもしれないと思ったが、なかなか難航している。
自分にはない、マインド。
この主人公にとって、『私は私』は当たり前。

(私も、そうなれればいいのに――)



/7/9『私の当たり前』




夕暮れが街を包み込み、夜を連れてくる頃。
街頭がマジックの合図のように一気に灯った。
それを皮切りに、ポツリポツリとともりだす。
誰かがそれぞれの窓をノックしたように順番にともる灯り。

漏れてくる夕餉の香り。
今日の夕飯はなんだろう?
カレーかな?


/7/8『街の灯り』




『狐の嫁入りでもありそうな
今にも泣き出しそうな空』

仕事終わりに会う友人の返事はこう返ってきた。

今日はずっと屋内にいたので、外回りをしている彼に天気を聞いたのだが――。
本好きの彼に言わせると、ただの曇り空も詩的表現されてしまう。

「そんな面倒な言い回ししないで、単純に雨降るかわからんあいまいな空って言えよ」


/6/14『あいまいな空』


  上げ忘れちゃんたち。

7/12/2023, 10:00:12 AM