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 好きな人を見る時、人間は無意識に瞳孔が開いているのだそうだ。好きな人をもっとじっと見ていたくて瞳孔が開くから、目が周りの光をいつもより多く取り込んで、景色が明るいと感じるのだそうだ。
 それならば、今自分が感じているこの眩しさにも納得がいく。暑さの去らない秋の午後、ソーダ味のアイスを片手に笑う相手を見て思った。
「夏がまだまだ居座っているみたい。いつになったら涼しくなるんだろうね」
 そう、なんてことはない世間話。そんな世間話になんてことはない相槌を打ちながら、やっぱりどうしても見てしまって、眩しくて、目を細める。
 溶けたアイスが服にぼたりと落ちた。慌てて視線を逸らした時、隣から楽しんでいるような声。
「あはは、ずっとこっちばっかり見てるからだよ!」
  見ていたのがバレていた。恥ずかしさと少しの罪悪感に、再び顔に猛暑が到来する。


【きらめき】

9/4/2023, 12:33:50 PM