【終わりなき旅】(300字)
彼女から溢れ落ちた涙は、シャワーの水とともに排水口へと飲み込まれた。
他の排水と混ざり合いながら下水道を流れ、下水処理施設で浄化されて、川へと流れ出る。ほどなく海へと辿り着き、潮に乗ってたゆたう日々が過ぎるも、やがて陽に照らされて蒸発し、雲となって、今度は風に流されるまま空をさすらう。いずれその身の重さに耐えきれなくなれば、地上へと落下する。
「あ、雨」
その一滴に、皺だらけの手の平を差し出したのは、遠い日に涙を溢していた彼女。
帰還したかと思いきや、水滴はすぐに振り払われる。地面に染み、長い時間をかけて地下水と合流する。あるいは、蒸発して再び雲の一部となる。
その旅は、終わることを知らない。
5/31/2024, 1:20:30 AM